海外在住者がひさびさの一時帰国中についついやってしまう…そんな「一時帰国あるある」を、イラストとともに紹介する当企画。第2回は、「住んでる国の言葉で店員を呼ぶ」です。
これはもうね、避けられないと思います。やったことない?「ない」と言い切れる人がいるのなら、きっと目配せで呼ぶところが多いと聞く欧米圏在住者ではないでしょうか。日本じゃなかなか気づかれないやつ。欧米人の方が多いであろう六本木とかならワンチャンあるけど。知らんけど。知らんわー。
ベトナムに住んでいた私の場合、呼び声は「Em ơi(エモイ)」。これ、正確には店員さん相手という訳ではなく、年下相手なら男女に関わらず使える呼び方。年齢差により違いますが、働き盛りの若い世代が多いベトナムでは、だいたいこれ。それゆえに帰国中もつい出てしまうのですが、ややこしいのが日本だとエモイはエモイで「感情が揺れ動いた」という意味の新語になるので、不用意に言い切ってしまうと大変危険です。一体何が、あの人の琴線に触れたのか…そのうえ店員の目を見て訴えている…。あるいは品川庄司・庄司のミキティーーー的な、あぁ、そういう口癖の人なのね。と解釈されるかもしれません(ミキティーーーはべつに口癖ではない)。
そんなほかの言葉と混同するベトナム語のようにややこしいものではありませんが、店員さんの呼び声は、英語だとExcuse me、スペイン語だとDisculpa、中国だと服務員、アラビア語だとلو سمحت、になるそうです。どれも比較的丁寧な言い方なので、お店や相手によって使い分けることもあるみたい。ちなみにアラビア語は右から左へ読むので、イラスト作成で苦労したことをここに意味なく報告しておきます。
余談ですが、というかまたまたベトナムネタですが、年上の男性相手だと「Anh ơi(アノイ)」になります。そこで突然一気に時を遡りまくって17世紀。長崎から当時のベトナムに貿易で渡った荒木宗太郎という武士がおり、現地で王族の女性を妻に娶り故郷に帰りました。妻は長崎のひとびとから「アニオー姫」と呼ばれ、いまでも地元のお祭り「長崎おくんち」では7年に一度、朱印船に乗った二人が帰ってくる様子が再現されています。
この「アニオー姫」という呼び方には、本人が夫の宗太郎を「Anh ơi(アノイ)」と呼んでいたことから、地元のひとびとがそう名付けたとも言われているのです。便宜上「アノイ」と書きましたが、地域によって発音も異なるので十分にあり得る話。これは宗太郎にベトナム語が通じたからそう呼んだのでしょうけど、時代は変われど、身体に染みついた習慣は帰国中だからといって切り替えられるものではありません。
ふと。昔、欧米のどこからか帰ったばかりという帰国子女男子とグループで話す機会があり、日本語の会話としては成立が危ぶまれるレベルで英語を挟んでは、「あ、いま英語出ちゃった!?」と言うので、場の空気がヘンな感じになったことがありました。いまとなってみれば、あれもよくあることだった…かもしれない。
作画:muraken
原案&文章:ネルソン水嶋
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