よい医療をやる人が経営で勝つ世の中に|アフリカ>ガーナ|後町陽子:後編

インタビュイー
  • 名前: 後町(ごちょう)陽子さん
  • 仕事: 医療経営コンサルタント
  • 海外在住歴: アフリカ・ガーナに2年間(2008年9月~2010年8月)
後町陽子さんのインタビュー画面

後町さんは、薬剤師、編集者、コンサルタント、さまざまな現場で活躍してきた人だ。一見すると関係性がないようだが、すべては「医療」という軸のまわりにあって彼女はそのときどきで強い意志を持って選んできた。その原体験は、かつてのアフリカ(ガーナ)での2年間の医療現場にある。前後編の後編です。

日本は自分のものさしで他国を計りがち

水嶋: ガーナの暮らしで、いま仕事以外で影響を受けたものはありますか?

後町: うーん、日本を外から見るという視点は得たかなと思います。いまって多様性とよく聞くようになりましたけど、とはいえ画一的な価値観は根強いと思う。そういう考えが特殊なのは一度離れて感じるようになりました。

水嶋: 具体的なエピソードってありますか?

JICA海外協力隊の任地ガーナにて、故障するバスと状況を確認する地元の人々。
故障したバスをみんなでチェック、しかし便利ばかりが幸せでもない。

後町: 私、ガーナの体験はシェアするべきだと思い、帰国後に中学校などの国際理解の授業で呼ばれて話したりしたんです。そこで同じ学校でもガーナはピアノやパソコンがないことを話すと「かわいそうだね」と言われる。でも現地の子たちはそう思ってないし、物質的に豊かなことがハッピーとはならないと話しても納得してもらえなくて。それで最後に先生が「はい、後町さんはアフリカのかわいそうな人たちのために活動してる偉い人ですよ」と言って、「そんなこと一言も言ってないじゃん」と思うことがありました。

水嶋: 行ってないとこ見たことがないこと、決めつけたい人は多いですね。

後町: プラス、画一的に描きがちなメディアが悪いよね。ガーナにいたときに日本から取材や視察に来る人の多くはみんなそういうスタンスだった。結論ありきでそのための絵を求めてる感じ。

水嶋: 視察じゃなくて確認しに来てる感じかな。

後町: 日本では病院や学校をつくればいいと考える人が多くて。それはそれで大事なことなんだけど、どこでも日本の環境を前提に話しがちだと思う。ガーナに行ったことでそれが分かるようになったのはよかったと思います。

ガーナの若者向け医療啓発イベントにて
地元の若手リーダーたちと開催した若者向け啓発イベントにて

薬剤師を経て、コンテンツメーカーに。

水嶋: 前回のつづきに戻り。大学院卒業後に病院で薬剤師として働いたと。

後町: そう。そこで1年半働いて、すごく恵まれた職場で医師とも協力しながら治療を考えられる環境でよかったんだけど、体力的にむずかしくなってきたなーと思って。そんな中で医療教育サイト(CareNet)を知った。薬学教育については学生の頃から常に考えていて、医療者向けの教材ってたいがいつまんないなと思ってたからそれを民間がやるっておもしろいし、コンセプトの「楽しみながら学ぶ」っていいんじゃないかと思って受けたら受かっちゃった。

水嶋: トントン拍子!

後町: いや、経歴的にまず受からないって思ってたんだけど!それから3年いて、一番やってたのは動画の企画です。(医療の)スペシャリストの方たちと、笑いながらつくってました。たとえばこれ、コスプレしてますけど!

水嶋: …えっ!…想像の3倍はバラエティ。何気に芸達者ね後町さん…。

よい医療が勝つビジネスをつくる

水嶋: それからいま、医療経営コンサルタントに?なぜ?

後町: コンテンツの仕事は楽しかったけど3年間ずっとプレイヤーで、中間管理職みたいなポジションもなかったのでこのままつづけて成長できるんだろうかと感じていて。取材で厚労省の会議に行くこともあったので、そうした現場もいいな、厚労省か政策が提言できるシンクタンクに行こうかと考えていました。医療は政策にどう乗るかという政策ビジネスの面もあるので。

水嶋: でも選んだ先はコンサルタントだった。

後町: シンクタンクはふつうに落ちて、厚労省は紹介してもらったポジションがいまやりたいことではなかったので辞退したんです。そのときにキャリア相談をしていた友人が勤めていた職場に、インターンに誘ってもらったことがきっかけで働くことにしました。それとひとつ大きな動機もあり。

水嶋: なんだろう。

海外の薬学生に向けて講義を行う後町さん
コンサルタントとは別に、海外の薬学生向けに講義も行う。

後町: いまの会社に入る前、知り合いの薬局の立ち上げを手伝っていて、私も彼女も『患者さんにこういう医療をしたい』という理想があって、処方元のお医者さんともうまく連携していけそうだったんですよね。するとある日、その勤務先の病院のコンサルと名乗る人から連絡があり、『お前らは薬だけ出してればいい』『余計なことは一切するな』と…。

水嶋: なにそれこわいな。

後町: 正直ムカついて、でも経営的なことを考えると抗えない、だけど医療者としては許容できなかったから、『よい医療をやっている人が経営的にも勝てるようにしたい』と思った。というより、いまも思ってる。

水嶋: 超かっこいい、それで医療経営コンサルか。

後町: それはアフリカの医療とつながる話で。いい医療してまっせ、でも日本からの援助なので3年後はなくなります。じゃなくて。現地でビジネスとして成立させる。だからここで学べばアフリカでも応用できると思ってる。

水嶋: 最初に聞いた『医療は万能ではない』とつながってくる話ですよね。

後町: うん。

水嶋: もうひとつの、『薬を届けるべきところに届ける』はしばらく保留?

後町: いや、それもつながってて、というより最近思い出したんですよ。

水嶋: そうなの!?

後町: 当時はそれを仕事にする方法が分からなかったので自分の中に閉まってた。だけどコンサルの仕事で最近、ジェネリック医薬品を扱う会社の海外展開の話をしているときに、ガーナで薬が届くべきところに届いていない実情を体験していたのでふと思い出し、『あ、これ、やりたいことだ』って。

水嶋: すごい。ガーナからいまに至るまできれいなロードマップが見える。

後町: そこまで考えてないですけどね!たまたまで。

水嶋: 必要なときに必要な選択をしてるんですね。

帰国就職に悩む友人がいればなんと言う?

“希望する就職先で、海外経験が適正に評価されないこともある。私も就職活動で「多様な経験してる人って組織の調和を乱すからジャマ」と門前払いされた。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。評価してくれる人は必ずいるので、あきらめず探そう。

また、海外経験を直接生かせる仕事は限られるので、固執しすぎず幅広く構えたほうがいい。そこで得た学びは自分の中で息づいているので、ちょっとしたところで生きてくる。現地の仰天小話を披露して笑いをとったり、海外情報を素早く入手してありがたがられたり、ほかの人にはない視点で提案して重宝されるなど…。私も帰国から10年経って、やっと自分の経験がさまざまな場面で役立ちいまの自分を創り上げていることがわかってきたところです。(後町陽子/2008~2010年・アフリカ・ガーナ在住)”


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2020-04-17|タグ: ,
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