2017年、あるウェブメディアの立ち上げを任され、ライターを集めるべく世界各地の日本人ブロガーを探しているときに知ったのが、当時JICA海外協力隊として活動中のタケダさんだった。文章からじんわり伝わるルワンダへの敬意から「ここが好きなんだな」という第一印象。それからしばらく仕事をしたが、想像通りの方だった。そんなタケダさんは任期を終えてルワンダで起業。事業はツアー、その理由を聞いてみると納得のストーリーがあった。
目次
ルワンダの魅力をネットとリアルでお伝え
水嶋: お仕事について聞かせてください。
タケダ: ルワンダのツアー業です。大きく3つあって、おもに学生向けにルワンダの歴史や文化を1週間で学ぶスタディツアー、個人旅行者向けにサファリやゴリラを見に行くオーダーメイドツアー、そして団体向けのツアー。2018年9月に起業したのでほぼ1年半、計145人の方を案内しました。
水嶋: こういうとなんですが…ツアーの需要があるんですね!
タケダ: そうですね。はじめる前はほかの方からも同じことを言われましたが、ここまで順調に進んでいて収入も会社員時代の1.5倍になりました。
水嶋: それはすごい。やっぱりブログ効果もありますか?
タケダ: はい。営業はしてないんですが、蓄積したものが活きていますね。
水嶋: ルワンダといえば「ルワンダノオト」、「ルワンダノオト」といえば「タケダノリヒロ」ですもんね。
タケダ: ただ、コロナの影響で休業中で、そんなことも言っていられなくなりましたけど。いまは次にどう動くか計画中です。
水嶋: なるほど…!そのあたりもぜひ聞かせてもらえたらと思います。
ルワンダでJICA海外協力隊として2年間
水嶋: ルワンダにはJICA海外協力隊で、ですよね。
タケダ: はい。協力隊には職種が120以上あるのですが、その中の『コミュニティ開発』に携わりました。簡単に言えば、住民の生活向上に関わる仕事ですね。力を入れたのは衛生意識の啓発で、小学校で衛生クラブ(委員会のようなもの)をつくって、手洗いの歌やダンスをつくったり。それと壊れている公共の水道を修繕しようとしたけど、そっちはルワンダ人の上司が…国有林の違法伐採で逮捕されていなくなってしまったので、断念しました。
水嶋: まさかの方向にオチた。
タケダ: ほかには、起業を想定していたので路上でフライドポテトをつくって売ってみたり、日本から来た友人をルワンダ人の友人宅のホームステイにつないでみたり。後者はスタディツアー事業のきっかけになってます。
水嶋: おぉ!けっこう自由にやられていましたね。
タケダ: そうですね。ただ当時、お金はもらっていなかったものの活動のことをJICA現地職員の方に話したら、「(病気やケガがあったら)責任はだれが取るの」と言われましたけど(笑)。とはいえそのあとも僕はかなり自由にやらせてもらっていましたね。自由度は現地の方針にもよるみたいです。
社会起業家に憧れて大企業→JICA海外協力隊へ
水嶋: 時間をさかのぼりますが、なぜそもそも協力隊に?
タケダ: 動機は社会貢献で、昔から社会起業家になりたいと思っていたんです。
水嶋: ほほう。
タケダ: でも、協力隊をやってみて当時は浅はかだったなと感じました。
水嶋: ドラマの匂いがしますね、詳しく聞かせてください。
タケダ: 協力隊の前は、森永製菓で営業をしていたんです。CSR活動(企業の社会的責任を果たす活動)に力を入れていたので選んだ会社でした。
水嶋: 社会貢献への思いが一貫していますね。
タケダ: 大学3年目のときに震災があって、入社後に配属希望を問われた時に、僕以外誰も東北を希望していなかったのですぐに仙台への配属が決まりました。それから週末は被災地ボランティアという生活を送っていたんですが、やはり外側から手伝うだけでは埋まらない溝を感じていたんですね。そんなときに社会貢献って何だろう?という疑問が浮かんで、学生の頃に留学をしていて、海外で働いてみたいという思いもあったので、それが合わさって国際協力だ、国際協力といえば協力隊だ、と。それで応募しました。
水嶋: 協力隊のことはもともと知ってたんですか?
タケダ: 名前くらい。それもいつだったか、森永の社員さんとスーパーで商品を並べていたとき突然「協力隊って興味ないの?」と聞かれ、当時は会社を辞めるつもりもなかったので「ないですよ」と答えただけのことでした。
水嶋: その人、もしかしてキーパーソンじゃないですか(笑)。
タケダ: そうですね(笑)。
“社会貢献”が”目の前の人に喜んでもらう”に
水嶋: ルワンダでの2年間で、価値観に影響を受けた部分はありますか?
タケダ: そんなに頑張らなくていいんだな、ということですね。
水嶋: いいですね、なんか。
タケダ: 日本だとあくせく働くのが当たり前だけど、ルワンダで暮らしたことで、より「生活らしさ」を身近に感じるようになったと思います。
水嶋: たとえば?
タケダ: ルワンダの人は生活にすごく時間をかけるんです。料理や、水汲みに。もちろんガス調理器を買えなかったり水道を家に引けなかったりして、仕方なくそうする方もいると思います。ただ、そうだとしても『生産性』を意識しているようには見えない人が多い。なにごともおおらかでゆったりしているので、そんな彼らの暮らしを見ていると、『無理して働かなくてもいいんじゃないかな?』と思うようになりました。最悪自給自足でも生きていける。あと、家の前で宙を眺めてただ座っているだけの人も多いんですよ。
水嶋: なんかもう、仙人の域ですね…。
タケダ: 仙人と言われると、そうなのかな。生産性でいえば悪いけど、逆に言えば贅沢な時間の過ごし方なのかなって思います。時の流れを楽しんでいる。まぁ、もしかしたら何も考えていないのかもしれませんが(笑)。
タケダ: あとはお金に絡むこときっかけで変わった考えもありますね。
水嶋: おっ、なんだろ?
タケダ: これは起業後の話ですが、お客さんを紹介したホームステイ先でお金を盗られる事件があったんですがあったんです。
水嶋: ありゃ。
タケダ: 財布の置き場所に手を伸ばしていたんですが、ホストに聞いても、『蚊帳を直していただけ』というんですが、ポケットからお札がはみ出てたんですよね。結局、100%確実に盗ったとは言えないけど、お金がなくなったことは事実だからと、そこへのホームステイ紹介はやめることにしました。
水嶋: 悲しいですね。
タケダ: ただ、当時はすごい悪人だと思ってたんですが、鍵をかけずに置いていたので、いまとなってはそんな状況をつくってしまった僕らも悪いよねと。数千円でも、彼らの月収にあたるので20~30万円が放って置かれていたら心が揺らぐ気持ちは分かる。信じようと疑おうと、やる人はやるしやらない人はやらない。なので、仕組みで防ぐしかないと思うようになりました。
水嶋: 分かるな。私も他人に期待しなくなりました、相手のためにも。
タケダ: そうですね、僕も同じです。
水嶋: 協力隊をやってみて、社会起業家になりたいというのが浅はかだったという話があったじゃないですか。そう思った背景は?
タケダ: なろうと思ってなるものじゃない、いま思えば肩書きがほしかったんだと思います。
水嶋: やりたいことがある訳じゃないけど社長になりたい、みたいな?
タケダ: そうですね!求められないことをやっても誰も喜ばない。ルワンダでの2年間で、地に足をつけて、小さくてもいいから目の前の人を喜ばせることが、そのための5W1Hを埋めていく作業が、大事だと学びました。
水嶋: そして、そのままルワンダで起業と!ツアー業を選んだ理由は?
タケダ: はい。何をしようかと思ったときに、協力隊任期中にやっていたホームステイでよく、日本人とルワンダ人の友人がみんな泣きながら別れてたんですね。僕も学生時代にタイで同じような経験をしてそれがいまでも原体験なので、若い人にも同じ体験をしてほしいなと思って事業を決めました。
事業の源泉、コンテンツマーケティングで生き抜く。
水嶋: そんな順風満帆に進んでいたツアー業ですが、いま、とりわけ観光業には辛い時期になっていますね。今後の計画などあれば聞かせてください。
タケダ: もともとツアー業の集客もブログ(ルワンダノオト)があったので、コンテンツマーケティングに力を入れていこうかなと考えています。
水嶋: 納得!ちなみに、ツアー業を念頭にやっていた訳じゃないですよね?
タケダ: はい。もともとは雑記ブログとしてスタートして、ルワンダのネタはぜんぜん読まれないのでやる気出ないなと思ってたんです。それが、あるとき台湾の情報を発信しているブロガーのまえちゃんから『2017年(当時)のルワンダのことを書けるのはタケダ君だけだよ』と言われて考え方が変わり、結果、いまそこで書いた記事がツアー業の集客につながっています。
水嶋: うん。私もブログをやっていたので共感します。そう聞くと改めて、タケダさんの事業の源泉は、コンテンツマーケティングにあり!ですね。
このインタビューから数日後、タケダさんはさっそくこれまでやってきたスタディツアー「START」のオンライン版を立ち上げ。協力隊の経験を踏まえると3年半かけて培ってきた知見とブランドを、この新時代に合わせて持ってくるという柔軟かつアグレッシブな動き。応援してます!
おうちで国際協力やグローバルキャリアを学ぶ!オンライン・スタディツアー「START」
帰国就職に悩む友人がいればなんと言う?
“海外経験者は国内でも活躍できると思います。グローバルと対極のローカルだから活きることもある。ちょっと海外に住んでただけで会社のインバウンドをしてと言われるとか、レッドオーシャンではなくブルーオーシャンを狙いやすいはずです。(タケダノリヒロ/2016年~現在・ルワンダ在住)”
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