イタリアで学んだ自分の時間を楽しむ働き方|アメリカ+イタリア|土屋勇人

インタビュイー
  • 名前: 土屋勇人(はやと)さん
  • 仕事: 心理コンサルタント/人材紹介業
  • 海外在住歴: 2009年1月~6月アメリカ/2010年8月~2011年9月イタリア
土屋勇人さんのインタビュー画面

土屋さんは、心理コンサルタントとして、企業を対象として人間心理を軸に人材開発や評価制度の見直しなどを行っている。その経緯を紐解くと原体験はイタリア留学に。辛い思いをしている中シェアルームメイトから掛けられた「自分の人生を楽しめ」という言葉を大切に、「社会を知らないまま社会人になりたくない」という意志がいまの仕事と暮らしにつながっています。

転職相談から心理コンサルタントへ

水嶋: いまのお仕事は何ですか?

土屋: フリーランスの人材紹介と、心理コンサルタントをやっています。

水嶋: 心理コンサルタントってはじめて耳にしました!

土屋: 心理カウンセラーは有名なんですが、コンサルタントはそのカウンセリングにかかる前の予防線を張るような仕事です。基本的には企業に対し、人間心理の観点から、人材特性の分析や、評価制度の見直し、また生産性を上げるための戦略立案などをしています。個人に対しても起業家などを対象に行っており、ブランディングなどを行う仕事です。

大勢の前で講演を行う土屋さん
講演のお仕事風景

水嶋: なるほど。それと人材紹介は、フリーランスとして?

土屋: はい、人材紹介会社にいた時期があり、そこから独立して、企業が求める人材がいれば紹介するということをやっています。その中でキャリアのアドバイスをすることが多く、心理コンサルタントはそこから派生してはじめたことなんです。仕事の相談に乗る中で悩みを聞くんですけど、最終的にその人が変わらないとどうしようもないという問題にぶつかることがある。そこで、どうやったら人を変えられるか?と思ってたどりつきました。

水嶋: 確かに、仕事の悩みって外的要因ばかりでもないですもんね。

アメリカに暮らしたことで難病の悩みから解放

水嶋: そんな土屋さんの海外経験について聞いてもいいですか。

土屋アメリカのアリゾナ州に半年、イタリアのフィレンツェに1年留学していました。通っていた大学が留学制度の充実しているところで、アメリカはそれで行ったんです。

水嶋: 最初から留学が念頭にあってその大学に?

土屋: はい。その大学に入ったきっかけは、高校生の頃からストリートダンスをやっていて、将来プロになりたいと思っていたんですね。

水嶋: ダンス!プロ志望!

ブレイクダンスを踊る土屋さん
大学時代。高校の頃と違い、長時間のダンスと可動域に限りがある。

土屋: だけど「滑膜性骨軟骨腫症」という関節内部に異物ができる病気にかかり、命に関わるものではないんですが激しい運動ができず、医者から「君が生きているうちに解明されることはない」と言われてしまったんです。

水嶋: 重いな…。

土屋: それでプロを諦めざるを得なくて、高校生の自分にはすごく大きな話で、塞ぎこんでしまって。そのまま大学受験も失敗して勉強も手に付かない時期が1年あったんですが、当時通っていた予備校の先生が変わっていて、「大学を偏差値だけで選ぶのは間違ってる」「将来を考えて行きたいところへ行け」と言う人だったんですね。

水嶋: 高校教師ならまだしも、予備校は珍しいですね。

土屋: そうですよね。それで、「自分を変えたい」と思って、当時まだ海外へ行ったことがなかったので、留学制度が充実している大学に入りました。

水嶋: そうか。大学で制度があるからじゃなく、制度があるから大学に入ったという訳ですね。ところで気になるのが、なぜ海外?「行きたい大学へ行け」と言われ、そこで留学を重視したことにも理由があったと思うんです。

土屋: それはたぶん、祖父の影響だと思います。僕はおじいちゃん子だったんですが、アメリカが大好きな人で、しょっちゅう行ったり、また向こうから友達が家に遊びに来たりしてたんですね。何を話してるかは分からないんですが、かっこいいなという思いはありました。

水嶋: はー、なるほど!納得です。アリゾナでの留学生活はどうでした?

アメリカ留学時代、土屋さんと学友たちと。
アメリカ留学時代

土屋: アメリカの格差社会や銃社会など、日本とはまったく違う異文化に触れられてよかったです。たとえば街なかを歩いていて、ふつうに行方不明の子どものポスターが貼ってある。あと多文化、ふたつの家でホームステイをしたのですが、一人目はスペイン系で二人目はフランス系、僕以外に中東やカナダから受け入れているとか。学校にもいろんな国の人が来ていました。

水嶋: まさに違っていて当たり前の世界ですね。いまふと思ったのは、ホームステイ先も、自分たちも外国にルーツがあるからこそ受け入れているのかもしれませんね。意識的か分からないけど、つないでいっているというか。

土屋: かもしれません。それで、そんな暮らしを送っていると、病気にしたってもっと辛い思いをしている人がいる中で、僕の場合は日常生活を送れている。自分はすごい狭い世界で生きていたのかなと思うようになりました。

イタリアから見た大震災と社会問題

水嶋: それから戻って、しばらくしてからイタリアへ?

土屋: 1年後に。ただ戻って1カ月後には興味が湧いて準備を進めました。

水嶋: すぐですね!

土屋: 大学の制度なので半年で帰らなくちゃいけなかったんですが、とてもおしい感覚があったんです。伝えたいことが伝えられるようになってきたぞというところだったので消化不良で、すぐにまたほかの国へ行きたかった。

イタリア留学時代、夕暮れ時の街を背負った土屋さん。
イタリア留学時代

水嶋: それがアメリカじゃなかった理由は何ですか?

土屋: 食が合わなかったんです、体調を崩すことがよくあって…。

水嶋: シンプルかつ重要ですね(笑)。

土屋: そこで第二外国語でイタリア語をとっていたので行ってみたいと思ったんですが、大学の制度の中で選択肢になかったので、自分で調べて現地のエージェントに連絡をとって行くことにしました。中でもやっぱり大きいのが、そのタイミングで東日本大震災があったことですね

水嶋: あぁー、その時期か…。

土屋: 朝、語学学校に行ったら、クラスメイトたちや先生から「日本がヤバイぞ」「大地震だぞ」と言われて。日本は地震が多いから必要以上に大騒ぎしてるんじゃないかと思って「あとで確認するよ」と笑っていたら、「いますぐ帰って確認しろ」と言われて、それでしぶしぶ帰ったんです。

水嶋: うんうん。

土屋: そうしたら家にいたイタリア人のゲストからも急かされて、YouTubeの動画を再生したらちょうど空港が津波に飲み込まれる様子がアップされていて、想像以上に大ごとだということをそのときはじめて知りました。

水嶋: あれを外国で知るってふしぎな感覚でしょうね…。

土屋: そのあと、原発で放射能の汚染水を海に流したじゃないですか。あれはこっちでも報道され、ヨーロッパではチェルノブイリもあったので、差別とまではいかないけど日本人と分かると原発原発と揶揄されたこともありました。イタリアは日本みたいにオブラートに包まずストレートに物を言うので、感覚の違いを思い知らされましたね。留学1年通じてその連続でした。

水嶋: 震災の時期ではなかったけど、私もベトナムに住んでいたので、日本での事故や事件を海外の報道を通して知るってけっこうカルチャーショックがありますよね。その国のスタンスもあるけれど、日本人として感じることと海外から見たことのギャップに驚かされる。あの時期に海外にいた日本人の方ってやっぱり印象が強いみたいで、何度か話を聞いたことがあります。

イタリア留学時代の土屋さん、友人たちと食事を囲む。

水嶋: そのほかはどうでした?

土屋: 学校はクリスマス休暇が三週間あって、なぜかというとキリスト教圏の国では家族と過ごす習慣があるのでヨーロッパの人は国に帰るんですね。それで時間ができたけど、ずっとフィレンツェにこもっているのはもったいないし、イタリア語も話せるようになってきたので国内を旅してみようと思い、ナポリとシチリア、そしてベネチアに行ったんです。

水嶋: いいですねぇ。

土屋: それで日本で買った13万円のカメラを持ってぷらぷらしてたら、

水嶋: 嫌な予感がするぞ。

土屋: 「プロのカメラマンなの?」なんて話し掛けてくれる人もいて。

水嶋: よかった。

土屋: その人はホームレスだったんですが、「イタリアは世界的には華々しく見えるけど、格差社会だったり、マフィアや、ゴミ、移民問題などの現実がある。それを君のカメラで伝えてほしい」と言われたんです。

水嶋: へぇ…。なんというか、語弊がある表現をするかもしれないけど、ホームレスの方もそうした政治に関心があるんだなという驚きはありました。いや、ホームレスだからこそ関心があるという見方もできるのですが。

土屋: イタリアは、というより向こうの人達は政治に関心のある人が多いですね。美食や観光でキラキラとしてるイメージだけど、悠久の歴史を愛するお国柄で、テクノロジー的には後進国だと思っています。交通機関も遅延するし、ストライキもある。本やテレビで見ていた、昭和の日本のようです。

水嶋: もしかしたらなんですけど。日本みたいにシステマチックではなく、そういう属人的なところがあって、生活と結びついている感覚があるからこそ、政治をなんとかしようという意識が根付くのかもしれませんね。

水路に座り佇む土屋さん

土屋: ただ、カメラがシチリアへ向かう途中で盗られてしまって

水嶋: え…えぇ~!!セーフだと思っていたら…。

土屋: 落ち込みました。様子を見かねた地元の女性が励ましてくれたんですが、「でもこれがイタリアだよ」と。何も知らなかったなと痛感しました。

水嶋: 手厳しい励ましだなぁ。

土屋: そのあとも飛行機の遅延があったりで、真冬のベネチアで徒歩を強いられ、お腹も空いてる中で迷って。こっちのホテルは門限があるところも多く、遅れるとチェックインできなくなってしまうんです。

水嶋: お、恐ろしい話だ。

土屋: 通りすがりのお兄さんに道を聞いても分からないと別れたんですが、また30分後に戻ってきて「場所が分かった」と案内してくれたんです。

水嶋: え。探してくれてたってことですか?

土屋: そうです。彼はフィリッポと言って、そこまでしてくれた理由を尋ねたら、「自分は大学で日本語を勉強してるし、これも国際交流のひとつだから」と答えたんですね。

水嶋: 粋ですねー。

土屋: そうなんです。でも旅行の最後、せっかくだからいい食事をと入ったレストランでお腹を壊し、そのあと5日寝込んで新年を迎えました(笑)。

水嶋: 山あり谷ありすぎません?

土屋: シェアルームをしていたニコーラというおじさんが看病してくれたんですが、「今回の旅はカメラを盗まれたりお腹を壊したり最悪だったよ」と話したんです。すると、いっしょに暮らす中でなにかあっても我慢してしまう僕の生活態度を心配したのかそこで返してくれた言葉が忘れられません。

水嶋: うんうん。

土屋: 「イタリアでは人は人生を謳歌する。大事なことは時間を味わうことなんだ。もし君が落ち込みたかったら落ち込んでいい、もし君が笑いたかったらたくさん笑っていい。今君は素敵な人生を生きている、そうだろ?」。

水嶋: いいですね。いいですし、イタリア人らしい考えだと思う。

土屋: 思わず号泣しました(笑)。そんなニコーラと、さっきのフィリッポに会ったお陰で、僕はイタリアという国が大好きになれたんです。

「自分の時間を楽しむ」という意志で選択する

水嶋: そんな海外経験、仕事や価値観にどんな影響を与えていますか?

土屋: 直接的には、そのあとイタリアの革製品を日本に輸入する仕事をしていたので、そこで語学は生きました。ただ語学というより語学を通して経験した世界観が強みになってると思います。発想だったり、行動力だったり。

水嶋: あぁ。海外で外国人をやってると、その国の社会に守られることは期待できないし、動かないことが極端に言えば生き死にに関わるじゃないですか。そういう環境で培われたたくましさもあったりしますか?

土屋: それはありますね。失敗って自分が学ぶ上で最強の教科書だと思います、僕にとってそうした感覚を身に付けられた場所が海外です。あとはやっぱり、ニコーラに言われた「時間を楽しむ」という考え方をすごく大事にしています。僕は浪人と休学を一年ずつしているので、同年代はすでに社会人になっていたんですが、就職活動にあたって話を聞くと「社会に出ると時間ないよ」「学生のうちに遊んでおいた方がいいよ」とみんなが言うんです。

水嶋: よーく聞く話ですね…。

土屋: それは嫌だな、そもそも、なぜ社会人をよく知らないうちから社会に出なきゃならないんだろうと思って。OB訪問もOG訪問も会社にとっていい話しかしないので、それでSNS(mixi)を使っていろんな社会人の人たちに会って回っていて、そこで話した人材紹介会社からスカウトされたんです。

土屋さんとSNSを通して知り合った人たち
SNSを通していろんな人と会っていた頃の写真

水嶋: なるほど。イタリアで得た「人生を楽しむ」という価値観、それがあったからこそ自分の道は自分で選ぶことにこだわった。それって、イタリアに行ったか行ってないかで働き方がガラリと変わっていそうですね。

土屋: はい。でも、その人材紹介会社は1年くらい働いたあとで2カ月給料未払いがあったこともあり、独立しましたけどね。

水嶋: おおう。でも、いろいろとお話を伺って点と点がつながりました。いまのお仕事を遡っていくと、心理コンサルタントの前にキャリアアドバイザーがあり、キャリアアドバイザーの前に人材紹介会社があり、その人材紹介会社は社会人に会って回っていたことがあり、それはニコーラさんの言葉があったから。なるほどな、という感じです。

土屋: ただ最近は、これまでひとりでやってきた期間が長いので、組織人としての働き方にも興味は出ています。そこにためらいがないのも、海外経験で得たことによって培われたフットワークの軽さからなのかもしれません。

帰国就職に悩む友人がいればなんと言うか

“もし希望通りの転職ができないなら、探し方がわるいのだと思います。さきざき独立したいのか、それとも稼ぎたいのか、ライフワークのバランスを大事したいのか。それによって会社やエージェントも違うし、転職の方法に正解はないので、自分に合うアプローチを考えてみてください。(土屋はやと/2009~2011年・アメリカ>イタリア在住)”

土屋勇人さんのSNSTwitterInstagram


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2020-05-14|タグ: ,
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