「日本語が載ってて暇つぶしになるから」と、社会科の資料集を持って中国へ渡った水谷さんはいま、日本で翻訳者として活躍している。中国のボードゲームに造詣も深く、最近彼が紹介した『マーダーミステリー』は話題沸騰中。そんな彼との付き合いはけっこう古く、私がベトナムに渡る前のTwitterのお笑いコミュニティのメンバー(大喜利仲間)。そんな身近な存在の新卒での海外就職が、そのあとの私の移住を後押してくれたことは間違いない。
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仕事はゲームの翻訳業メイン
水嶋: お仕事について聞かせてください。
水谷: フリーランスの翻訳と通訳で、中国語→日本語の翻訳がメインです。電子(ネット)ゲームが全体の8~9割で、あとは契約書などビジネス文書。それとたまに知り合いづてでボードゲームの説明書を翻訳しています。
水嶋: ゲーム関係に強いよね。
水谷: はい。プロジェクトとしては月1~2個ですが、ゲーム内に出てくる言葉のすべてを翻訳するのでボリュームは多いです。ボードゲームの方は半分趣味ですね。
水嶋: 「趣味」。
水谷: ボードゲーム好きなんです。ネットショップもやってます。
水嶋: あ、販売もしてたんだ。よし、ではそんな水谷さん、中国の大連と上海に合計7年いた訳ですが、経緯について教えてください。
新卒の就職先は中国・大連
水谷: 大学卒業後、新卒として中国で働きはじめました。
水嶋: いまもそうだけど、2011年だともっと珍しいパターンですよね。
水谷: そうですね。最初は日本で就職するつもりだったんですが見つからず、そんなときに友人に『海外行ったら?』と冗談で言われて、実際に調べてみたらそういう道も意外とあるということが分かったんです。
水嶋: 冗談だったんでしょ?それで行動するってすごくない。
水谷: 大学2年生で韓国に短期留学をしていたので、あんまり抵抗感がなかったのかもしれません。
水嶋: そういうことか。
水谷: それで海外就職専門サイトを見ていたら、大連で新卒の日本人を20人募集しているという求人を見つけたんです。そこに『言語(英語、中国語)ができなくてもサポートする』ということも書いてあって、行きました。
水嶋: 海外で新卒の日本人を20人も採るって聞いたことない、どんな仕事?
水谷: 大手検索サイトのガイドラインに違反したものを削除するという内容で、当時は日本向けに事業拡大していたタイミングだったんです(※)。今日本語の検索サービスも終えて、大連から撤退しちゃったみたいですけど。
※田辺ひゃくいちさんと同じ職場です、偶然。
中国で言語習得、ボードゲームの世界と出会う。
水谷: 中国に住むからには言語を習得したいなと思って、最初はインターンとして午前中に中国語を勉強して午後に仕事。1年後に新HSK(中国語の言語検定資格)で最上位の6級をとりました。その後『仕事で中国語を使いたい』と思い求職サイトに登録したら、『上海なら事務所もポストもあるので来てください』とスカウトを受けたんですが、ちょうど勤務先の大きな組織変更があり業務が新しくなるタイミングだったのでそのまま継続しました。
水嶋: 翻訳者としての道はそのあと?
水谷: はい。1年経ったあと…大連で3年後ですね、『やっぱり翻訳やりたい』『(スカウトされた)あの会社があったな』と思って、連絡をとって、採用が決まりそのまま上海に。向こうではひたすら翻訳をしていましたね。
水嶋: いま趣味でもあるボードゲームはもともと好きだった?
水谷: 大連でボードゲーム会に参加したことがきっかけではじめました。そのあとである台湾のボードゲームをプレイしたところおもしろかったけど、日本語の説明書がめちゃくちゃでそれがもったいなくて、『訳させてくれ』と製作者の方にお願いしました。その方とはずっと付き合いがつづいていて、いまも仕事をもらったり、お客さんを紹介してもらったりしています。
水嶋: すごい!7年前のつながりがいまも仕事としてつづいているとは…。
海外経験は言葉を扱う仕事全般にいきる
水嶋: 海外の経験がどう活きているか、影響を与えているか知りたいです。
水谷: そうですね、興味を広く持つようになりました。自分たちの世界で完結して、コミュニティ間での交流がないことってあるじゃないですか。だけど中国にいたことでいろんな方向に興味を持つようになったなと思います。
水嶋: わかる。ひとりの外国人として住むってことだからね。マイノリティだし、そこから数歩歩いたら外の世界に出ちゃうようなものだし、それがいろんなコミュニティを渡り歩くってことにつながってくるんじゃないかな。
水谷: 翻訳という仕事って幅広くて、あらゆる経験が活きてくるんですよ。
水嶋: 文脈を理解していることって超重要だもんね。作家はいろんな経験をした方がいいというけど…言葉を扱う仕事全般に言えるのかもしれないね。
水谷: あと、中国での経験でいえば、いろんなことに寛容になった気がします。ミスがあってもそれくらいいいんじゃない、と思うようになりました。
水嶋: そこはね、まず日本が世界トップクラスに厳しいもんね。
水谷: そうですね。
中国茶から学ぶ中国人の考え方
水嶋: 趣味で中国茶やってるでしょ、あれはなぜはじめたの?
水谷: 中国にせっかくいるのでなにかしらしゃべれることがほしかった、からですね。あぁ、でも、お茶を通して東洋的な考え方がちょっとわかりました。たとえば、緑茶は身体を冷やし紅茶は温める。これに西洋医学的な根拠はないんですが、中国でも信じる人は信じてるので否定するべきじゃない。
水嶋: ある意味ではそれもさっきの『寛容』だね、スケールは大きいけど。
水谷: あと、中国では水が湧く場所に対して、『井戸』は一番下で、『川』が中ぐらい、『山』はかなり上、って考えるんですよ。それはきっと経験的に知っていることでもあると思うんですけど、そうした中国人の考え方が中国茶を通してわかったと言えますね。
水嶋: へーーー、経験的に知っているってまさに東洋医学の世界だよなぁ。水=医学って訳じゃないが。そういう文化に潜っていくとその国の真髄みたいなものに触れられそうだね…。日本でいう『ワビサビの世界』みたいな。
“中国前”に学んだことが”中国後”に活きた
水谷: 最近、法律関係の翻訳をしてるんですよ。実は大学の頃に法律を学んでいて、中国にいるときはもう縁がないと思っていたんですけど、関係してきたんですよね。ほかにも、もともと韓国語の漫画の中国語版を読んでいたら分からない表現があって韓国語を学んでいたから原本を読んで理解した。
水嶋: それ、おもしろいしとてもいい話だね。私も昔、大学や新卒で入った会社でいやいやプログラミングやってたけど、今はコンテンツとITが近いので、たま~にいやいやプログラムを直したりして、経験に助けられてるよ。
水谷: ははは。
帰国就職に悩む友人がいればなんと言う?
“帰国後すぐに海外経験を活かさなければいけないことはないと思います。人生にはいろんな経験があって、海外はひとつの経験。どこかのタイミングで、きっと活きてくるはずです。(水谷剛/2011~2018年・中国在住)”
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