憧れ掴んだスペイン生活とフリーランス悲喜こもごも|野中達哉

世界二位の数の観光客が訪れる国、スペイン。日本人にも聞き馴染みのあるバルセロナやマドリードではなく、アンダルシア地方のマラガという街で観光ガイドとして働く野中さん。日本人の、とくに年配の旅行者には日本人の個人ガイドの需要があるという。この国にはじめて訪れたときに「スペイン人は人生を楽しんでいる」と感じ、その3年後に移り住んだ。しかしいま、コロナ禍の中で、新しい選択を考えはじめているという。

野中さんのインタビュー画面
プロフィール野中達哉(のなかたつや)。1986年生まれ、千葉県出身。大学の卒業旅行で訪れたスペインに興味を持ち、日本で会社員として3年間働いた後にスペインへ語学留学。現地の専門学校で観光学を専攻、卒業後はフリーランスとして現地の観光ガイドなどで活躍しながら、スペインの素晴らしさを日本に伝える架け橋になれるよう奮闘中。趣味は旅行、料理、写真撮影。/運営サイトInstagram

野中さんはマラガに強い日本人観光ガイド

水嶋: お仕事について教えてください。

野中スペイン南部にあるマラガという街を拠点として、日本人観光客の方向けに、アンダルシア地方の観光ガイドをしています。ほかに、現地の旅行代理店で訪日旅行に関するコンサルタントをしていたり、2年くらい前からはK-1選手への日本のテレビ取材の通訳もしています。

水嶋: へーー!いろいろやられていますね。

野中: ある意味なんでも屋なので、要望があれば単発で受けてますね(笑)。

水嶋: アンダルシア地方には日本人観光客が多いんですか?コロナ禍のいまはともかく、ふだんは。

野中: 多いですね。スペインはフランスに次いで世界で二番目に観光客が多い国なんですが、アンダルシア地方ではグラナダという街にあるアルハンブラ宮殿が日本人にも人気で、ミハスという真っ白な建物ばかりの村なんかは、日本人の方なら100%行かれる場所です。そんな中で、とくに年配の方が日本人の個人ガイドを頼まれることが多く、日本人同士だからこそ分かる気遣いを求められていると感じます。

白い建物が多い村、ミハスの一角。
白い村、ミハスの一角。

水嶋: なるほど。聞いていておもしろいなと思ったのは、私がいたベトナムでは年配の旅行者っていなくもないけどそんなに多くなかった印象なんですね。それこそ個人ガイドが成立するほどは。で、うちの祖母なんかはベトナムに対してまだ戦争だとかジャングルとかのイメージが強くって、もしかすると年配の方ほど、「海外旅行といえば欧州」という傾向があるのかもしれないなーって思いました。

野中: そうなんですか、それはおもしろいですね。

水嶋: 訪日旅行のコンサルタントってお話…スペインでも人気なんですか?

野中: ここ数年でかなり人気が出ています。ただ、スペイン語での日本旅行に関する情報がネットにまだまだ少ないので、現地の旅行代理店はどう企画をしたらいいのかが分からない。そこで私が観光ルートを提案したりと相談に乗ることが多いんです。

水嶋: スペイン人の嗜好に合わせてってことですよね、どういうものですか?

野中: 観光地でいえば、意外に人気なのが日光東照宮ですね。誰に聞いても「すごいよかった」と話します。そもそもスペイン人観光客は日本のお寺に関心が高いのですが、都心から近くて、木造建築物で、かつ装飾がすごいという点で惹かれるものがあるのかもしれません。

水嶋: へーー、そうか、ガウディに象徴されるように建築の国だからというのはあるのかも…。

野中: それといまスペインは日本食ブームなので、「神戸牛を食べたい」という人なども多いです。ただそれがどこで食べられるかまでは分かっていないので、リクエストに応える形で神戸をルートに組み込んだりとか。

水嶋: 都市名として認識してない可能性もありますもんね。そしてK-1選手の通訳!選手が多いんですか?

野中: 多いですね。K-1に限らず柔道や空手など格闘技全般でいい成績を残しているんですよ。でもなぜだろう。欧州でも体格が大きい方ではないし、影響を与えるような有名な先駆者がいた訳でもない。しいて言うなら、血の気が盛んで、すぐ燃えるタイプというのはあるかもしれません。

水嶋: ありそうですね。アジアでいえばタイが近いのかもって思いました、ムエタイだってあるし。

マラガの街並み、海と山と花が映える。
マラガの街並み

世界屈指の観光国、盛り上がる訪日観光、K-1選手が多い…。スペインの市場や特徴を活かした仕事に取り組む野中さん。そんな彼がこの国を訪れたのは大学4年生のとき。そこで、「ここに住みたい」と感じたという。

「人生を楽しんでいる」と感じたスペイン、3年後に移住。

野中: スペインには大学の卒業旅行ではじめて来たのですが、そのときに「人生を楽しんでるな」「この国に住みたいな」って思ったんですね。ただ、すでに日本で内定はもらっていたのでそのまま就職して、社会人として働く間にも二度スペイン旅行に行きました。働きはじめてから3年が過ぎた頃、人生一度きりだし思いきって移住しようかと思って、現地での語学留学を経て、観光系の専門学校に入ったんです。

水嶋: 「人生を楽しんでる」って、どういうところで思いました?

野中: 夜11時頃にバル(スペインの居酒屋)に行くと、たぶん地元の人たちがカジュアルな服装でワイワイと飲んでるんです。当時は話している内容が分からなかったですが、とにかく楽しそうに話していて。日本だとスーツ姿の会社員が愚痴をこぼしあっているという印象が強かったので、それと対照的な光景だと思いました。

水嶋: 実は私もスペインに一度だけ行ったことがあるんですが、ちょっと似た印象はあったかな。バルセロナのヨットハーバーにさんさんと光が降り注いでいて、家族連れやカップルが黄昏ていて、ウミネコが鳴いていて、多幸感あるなーと。しかしまた、スペイン語を学んだあとに、観光系の学校を選んだのはなぜですか?

野中: 語学留学した街がいまも住むマラガで、会社員時代に行ったことがあったんです。地球の歩き方(有名ガイドブック)には1ページも載っているかないかの街なんですが、海沿いで、年間40日くらいしか雨が降らないすごくいい温暖地で、このマラガを日本人に知ってもらえる仕事ができたらと思っていたんです。

水嶋: なるほど、マラガとの出会いが観光の道を示したと。あ、でも、いまはフリーランスとしてやられているんですよね。現地の旅行会社への就職ではなく、最初からフリーランスだったんですか?

野中: はい、僕は最初からフリーランスでした。といっても実は結果的にそうなって(笑)。当初は現地の旅行代理店で働く予定だったもののその話がなくなり、学生ビザの期限が迫る中で、スペインに残る唯一の道がフリーランスだったんです。それはそれで自営業のビザが必要で、社員になるより難関で諦めていたんですが、観光の専門学校にも通ったこととガイド業の一貫性が認められて無事にビザを取得することができました。

水嶋: うおおぉぉ、綱渡り…。

野中: ちなみに、スペインってフリーランスが多いんですよ。人口の17%。欧州全体にその傾向はあると思いますが。なのでフリーランス同士助け合っていこうという意識は強いですし、企業がフリーランスに仕事を依頼することも頻繁にある。

水嶋: フリーランスが多いこと、企業がフリーランスに依頼すること、それって鶏と卵の関係みたいですね。一方があって、もう一方が成立する。

野中: 都心だとまた違ってきますが、スペインはチェーン系のお店が少なくて、個人商店が多いんです。そんな土壌もあって、街のコミュニティが形成されている。「何時にあそこの喫茶店に行けばあいつがいる」、みたいに。そうした背景が結果、フリーランスが多いということにつながっているのだと思います。

水嶋: まるで小学生時代に、「どこの公園に行けばあいつがいる」みたいな感じですね。いまの子どもはスマホで連絡を取り合ってるかもしれないけど…。

野中: そうですね!まさにそんな感じです。

フラメンコショーも行われるバルにて、大勢の客で賑わう様子。
とあるバルにて。奥のステージではフラメンコショーも行われる。

働くことは、海外に拠点を移す上でひとつの壁だと思うが、フリーランスが多いということは外国人にとっての過ごしやすさにも影響しているかもしれない。ただ、会社という組織に守ってもらえないことは、それはそれで厳しい環境でもあるが。そんな野中さんが感じるスペイン生活の魅力は、「オンオフの切り換え」だという。

スペイン人は仕事関係には仕事以外で連絡をとらない

野中スペイン生活でいいなと感じるところは、オンオフの切り替えでしょうか。こっちではみんな始業時間ぴったりに仕事をはじめて、というよりむしろ始業時間に職場に着いて、終業時間には帰宅する。上司や同僚、お客さんとは、仕事以外では連絡も取らない。欧州では同じだと思いますが、それが自分には合っていますね。

水嶋: 徹底してますね。と言いつつ、オンオフに関してはベトナムもそうでした。切り替えたいというより、家族が友人が優先だから自然とそうなる。この点は、海外を経験されたみなさん異口同音に言うので、もうさすがに「日本が少数派なんだな」と思えてきました。ところで、スペインで働く日本人って多いんですか?

野中: それが実は、20~40代の年代が少ないんですよ。駐在員は別として、現地採用でスペインに来ている日本人は少ないので、日本人だからこそできる仕事においては引く手あまただと思います。日本人の仕事に対する遂行力はスペイン人よりも高いと評価されているので、歓迎されるケースが多いかと。

水嶋: へぇー!

野中: 最近だと、太陽光発電や風量発電など、自然エネルギーの分野が盛り上がっています。そうしたところで「日本企業に営業したい」「日本人の営業が必要だ」という需要が増えているんです。

水嶋: そうなんだ、まったく知らなかった。ただ、現地企業なら、語学は固めておいた方がよさそうですね。

野中: そうですね。グローバルな職場であれば英語でもいいですが、スペインで働く上で、スペイン語は話せておいてまず損にはならないと思います。

ガイド仲間とリハーサルをする様子
ガイド仲間とリハーサル

スペインでは日本人人材の需要がある…。意外な事実に驚いたが、その話をしながらもフリーランス生活を送る野中さんは、やはりいまの自由な働き方を重視しているのだろうか。尋ねてみると、フリーランスとしての苦悩が見える、意外な答えが返ってきた。

コロナ禍のいまがフリーランス生活の正念場

水嶋: ちなみに野中さん自身は、そういったところへの就職は考えていない?

野中: いや、実は考えているところなんです。コロナで観光の仕事ができない状況で、さらにもともと少なかった日本人の求人もさらに減っています。いまはフリーランスビザなので、就職すると切り替える必要があり、会社にとっても煩雑な作業になる。そうした懸念を踏まえると、帰国という選択肢もあります。

水嶋: え!めちゃくちゃ節目なときに取材したんですね…私。

野中: なのでいまは就職を念頭に貿易関連のことを勉強していますが、スペイン政府にとっても観光は重要な産業なので、夏のピークシーズンや、秋に第二波が来るかどうかもふくめ、年末まではしばらく様子を見てみるつもりです。

水嶋: じゃあ、就職は、コロナがなければ考えもしなかった?

野中: いや、どちらにしろ考えていたことです。フリーランスはやはり生活が安定しないということもあるし、たとえば上司など、評価してくれる人が近くにいた方が自分の性格的にも合っていると思っています。

水嶋: フリーランスは…孤独ですからね~。分かります。

野中: 一番良い形は、スペインでの永住権獲得です。はじめての旅で「人生を楽しんでるな」とこの国に対して抱いた印象は、実際に住んでみて確かだったと感じています。

バス車内にて観光客を案内中の野中さん
バス車内にて観光客を案内中の野中さん

スペインに生きるフリーランスならではの実情を聞けました。よい面も、そうでない面も。ベルリン在住の向日葵猫さんに話を伺ったときも感じましたが、外国人としての強さ、フリーランスとしての強さ、このふたつは「周りの環境に頼らず(頼ることがむずかしい)生きていく」というところで、とても似ているなと思います。逆境に身を置かなければ強くはなれない、しかし逆境の辛さもある。野中さんの活躍を願っています。

なお、この記事を書いているタイミングで、スペインで100日つづいた警戒態勢が解かれたようです。お~、朗報!ここから国内移動や海外からの観光客受け入れもはじまっていくはず。

野中さん運営サイト:旅行 | ムーチャ・マラガ | スペイン
野中さんInstagram:現地ガイドのフェルナンド@マラガ(@mucha.malaga)


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2020-07-01|
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