
向日葵猫さんはドイツ・ベルリンで暮らすフリーランスの翻訳者。大学時代は英文科で、アイルランド留学で培った英語を海外で活かそうと就職活動するも難航、しかし「海外で働きたい」という思いは変わらずベトナムの現地旅行会社へ。それが回り回って英語を活かす仕事に就き、また当時の経験がいまや翻訳に限らないパラレルワークを実現させた。その道に続いているか分からなくともまず一歩を踏み出してみる、彼女の生き方はその大切さを教えてくれる。
目次
ベルリンでフリーランスの翻訳&パラレルワーク
水嶋: いまベルリンにいらっしゃるのですね、お仕事は?
向日葵猫: 日本語と英語の翻訳が中心で、そのほかにライターとしてウェブサイトに寄稿したり、観光ガイドもやっています。割合でいえばだいたい、4・3・2、あと視察などの通訳が1くらいです。
水嶋: ドイツの前はベトナムにいらしたんですね。ちょうど同じ時期に私もいたんですが、ベトナムのあとにドイツへ、というよりヨーロッパに移った方もあまり聞かないもので驚きました。
向日葵猫: そうなんですね。ベトナムは、新卒で就職したんです。

水嶋: へぇ!それも珍しいな。経緯について教えてください。
向日葵猫: 学生の頃は英文科で、アイルランドに留学したこともあり、そこで培った英語を活かしたくて海外で就職したかったんです。
水嶋: アイルランド?いまルワンダにいるタケダさんも留学してましたよ。
向日葵猫: あっ、私自身の大学は違うんですが、きっと留学先の大学は同じです。私はその次の代で、一度だけお会いしたこともあります。何人かいたので向こうは覚えてらっしゃらないかもしれないけど。
水嶋: へーーー、つながるなぁ。と、脱線すみません。それで、ベトナム?
向日葵猫: はい。英語を活かしたくて、海外に拠点のある商社やメーカーを受けたんですが、全滅で。でも諦めたくなくて、そんなときに学校でベトナムで働くという求人票があって、本当にベトナムなのかな?と思って説明会に行って、そこで本当だと確認できたので、就職することにしました。
水嶋: 念入りですね(笑)。当然か。でも、ベトナムって、ベトナム語じゃないですか。英語じゃなく。それって、最初の動機は「英語を活かしたい」だったけど、それが「海外で働きたい」に変わっていったってことですか?
向日葵猫: そうです。ヨーロッパに行きたいと思っていたんですが、その頃は海外で働けるならと思ってて、世界地図にダーツを投げてみたらベトナムに当たった。みたいな感じでした。
水嶋: なるほど。表現がおもしろいですね、旅みたいに就職する感じだ。

ベトナムの旅行会社でマルチワーク生活
水嶋: ベトナムではどんなお仕事を?
向日葵猫: 現地の、日本人が経営に関わる旅行会社で働いていました。しばらくは、ツアーやチケットの手配などをして、そのあとでメインでやっていたのは広告制作や営業です。
水嶋: 旅行会社の広告??発注側として?
向日葵猫: いえ。ベトナムに住まれていたのなら見たことあると思うんですけど、街頭でその旅行会社の日本人が手作りの地図を配っていたんですね。あれの制作や、広告枠として販売していたのでその営業もしていました。
水嶋: あったあった!あれか。って、制作も営業もするって珍しいですね。
向日葵猫: そうですね。人も少なかったので、媒体としての地図全般のことをやっていたので、イラストレーター(ソフト)を覚えたり。それ以外にも会社のブログ記事を書いたりと、いろいろと経験しましたね。
水嶋: 忙しそうだ…!

向日葵猫: それで1年数カ月経った頃に疲れてしまって、仕事と休みをバランスよく取りたいと思って。広告営業が中心だったので、ベトナムでその職種を募集している(メディア運営事業のある)会社に再就職しようと思ったんです。
水嶋: なんかまた忙しくなりそうですけど…(笑)。
向日葵猫: 自分のキャリアで転職しようと思ったらそれしかない、と当時は思っていました。
水嶋: それって悩ましいですね、望んでやれるなら問題ないけど、キャリアチェンジがむずかしいってことじゃないですか。私も日本でエンジニアで、キャリアを変えるためにベトナムに渡ったので、気になる話だ。
向日葵猫: それから、当時あるビジネス系情報サイトを運営していた会社に転職したのですが、ちょうど入社してすぐに方針が変わり、私の業務内容が変わったんです。
水嶋: え!どんな内容に?
向日葵猫: そこはかんざしの販売や着物のレンタルなど、和装製品のオンライン事業をメインに取り扱っていて、社内公用語が英語だったので、デザインチームに指示を出したり日本本社にいる日本人との間に入る通訳や翻訳業務が中心になりました。
水嶋: ん!?じゃあ、なんですか、回り回って、もともと希望していた英語を活かす仕事に就いたってことですか?
向日葵猫: そうです!
水嶋: へーーーー!そんなことあるんですねぇ。

向日葵猫: サイトの多言語対応もあったので、話すこと書くこと全般に英語が必要で、前職とは比べものにならないくらいに使う機会が増えましたね。
水嶋: でも、それで思ったのが、英語が社内公用語なのはわかるけど、その通訳を日本人が担うって珍しいですよね。
向日葵猫: その会社の場合は、日本本社にいる日本人の方に英語が堪能な方が多くはなかったので、たとえば、会計作業の外注の選定などそういった肝になるところは現地採用の日本人が本社と支社のやり取りをサポートしてくれると都合がよかったようです。
水嶋: あーーー、なるほど。まぁ、内容が難解になるほど把握している日本人がいてくれると安心するのは分かる。それを聞くと、会社の方針変更に関わらず、遅かれ早かれ向日葵猫さんはその位置に移されていた気もします。
向日葵猫: 人生、「塞翁が馬」だなと思いましたね。
水嶋: そのことわざが実際に使われるところ、いまはじめて聞いた(笑)。
より語学を活かしより自由を求めてベルリンへ
水嶋: はたから聞くと、ついに「英語を使う」という努力が報われた!と思えるような職場ですけど、辞めてベルリンへ渡ることになるんですよね。
向日葵猫: はい。会社に勤めながらフリーランスとして翻訳の仕事もしていたんですが、両立はむずかしく、いずれは翻訳一本でいきたいと考えるようになりました。その頃に上司が「家族と過ごしたい」といって独立した話を思い出し、ライフワークバランスを考えた働き方っていいなぁと思うようになったんです。
水嶋: うんうん。
向日葵猫: それで、学生時代の留学体験から「ヨーロッパで暮らしたい」という気持ちはずっとあって。そんなときによく使っていたランサーズ(案件マッチングプラットフォーム)で当時フリーランスとして情報発信をしていたwasabiさんの紹介記事を読み、ベルリンでフリーランスビザが簡単に取れると知って、マジで言ってんのかな?と彼女のブログを読みはじめました。
水嶋: そして「マジで言ってた」となった。
向日葵猫: はい。それでベルリン移住に興味が湧いてきたんですが、現地は住居戦争みたいなところがあって、売り手市場でひとつの物件に300人の待ちがあったりするんですよ。
水嶋: ま~、世界中から移住しやすいってことだもんね…。
向日葵猫: なので、部屋の確保と、あと現地状況を掴むためにも、ワーホリビザをとって入国。いまはフリーランスビザに切り替えて生活しています。

水嶋: 余談ですけど、ワーホリビザって勤務先に縛りはないんですか?
向日葵猫: 一年有効ですが、その間はどんな仕事をしても構わないんです。
水嶋: うおっ、マジで。
向日葵猫: ただ、フリーランスビザは最近条件が徐々に厳しくなっていて、「ドイツ国内でのクライアントが2社は必要」だとか増えてきていますが。
水嶋: それでも、そんなもんか。話を聞いているとあまりデメリットがないし、それは確かに「マジで言ってんのかな」と思いますね。ベルリンにフリーランスの日本人が多いことにいまようやく心から納得ができました。
向日葵猫: ただ、ビザ取得後に切り替え必須となる公的保険があって、それは高めだったりしますけどね。
これまでの海外経験はいまの仕事にどう活きているか
水嶋: 3ヵ国を経験されている訳ですが、どうですか?
向日葵猫: 語学は確実に活かされていますね。
水嶋: そうですね、なにしろお仕事が翻訳と通訳ですもんね。
向日葵猫: ガイドは旅行会社で働いていた経験が活きているし、ライターもそこでブログ記事を書いていたことが活きている。たまに英語での商談サポートもするんですが、それは広告営業をしていた経験があってのものです。
水嶋: おぉ、そうか、改めて聞いてみると、いまのお仕事ってベトナムでの経験をぜんぶ並行してやっている感じですね。
向日葵猫: そうですね。あとは、物怖じしなくなった。知らない国に行くことに抵抗がなくなったことは、新しいことへの挑戦にも通じるところがあります。それに、人生に責任を持つようになりました。会社員だと福利厚生も保険もビザも会社がやってくれますが、フリーランスだとぜんぶ自分でやらないといけない。それは、事前に障害を考えることにもつながっています。
水嶋: なるほど。それはフリーランスだから培える強みでもあるけど、さらに海外で、つまり外国人というマイノリティの立場だと、たくましくなくちゃ生きていけないというのはありますよね。
帰国就職に悩む友人がいればなんと言う?
“日本での就職はひとつの進路でもいいけど、それに縛られない方がいいですね。やっぱり、海外にいると(多くの日本人とは)考え方も変わってくるので、順応しづらくなると思う。仕事にしろ、自分の考えに合う生活を送るのがいいと思います。(向日葵猫/2013年~・ベトナム>ドイツ在住)”
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